スタートアップのアドバイザーをしている時と、大手企業のコンサルティングをしている時に特に差異を感じるのは、企業規模が大きくなるほど、HR領域のテーマは感情面に重きを置かれているということです。
1on1で部下に傾聴する、本人のWillを引き出す、評価制度において部下の納得感を高め、成長にコミットさせる、等々。ある意味、余裕のある企業でないと取り組めないテーマです。
それ自体は何も悪いことではないのですが、研修の受講者や制度設計を検討するメンバーに「勘定」、つまり企業として儲ける、という意識が薄い場合があると感じています。
部下のキャリアに対する本音を引き出すこと、評価に納得して成長にコミットしてもらうこと、それらは個々人が成長し、成果を出し、その集合体として組織・企業を成長させることが最終的な目的だと私は考えます。
しかしながら、「部下がやる気をなくすから低い評価はつけられない」、「コミュニケーションがしづらくなるので、成長を厳しくは求められない」といった意見や、「低い評価でも少しでも昇給させたい」、「パフォーマンスが悪くても賞与はある程度担保してあげたい」、など会社の収益を意識せずに主張するマネジメント層は、私の感覚では組織が大きくなるほど増えるように思います。
これは、昇格させる、昇給させることが財務に及ぼすインパクトなどを考えずに済む、人件費が一定程度確保されている安定した企業にいらっしゃるからなのだと思います。
ただ私は、マネジメント層はすべからく経営の視点で考えるべきだと思っています。昇給や昇格をさせることで、それに見合った収益や価値を生み出せるのか、増加する人件費に責任を持ってその判断を行えるのか、その観点に立って1on1や評価を行ってほしいと思っています。
一方でスタートアップ、ベンチャー企業はバーンレートやランウェイを意識しすぎて、部下の感情にまで気を回す余裕がないことが多く、ファウンダー同等のコミットと早急な成果を入社する人に求め、期待ギャップによって人が定着しない課題が散見されます。
HR領域の課題は、勘定面を無視して感情面の「べき論」だけで解決しようとすると、きれいごとになって、形骸化しがちです。
マネジメント層が感情と勘定の視点をバランスよく持って組織運営に取り組めるよう、クライアントの状況、企業としての成長段階に合わせてソリューションを設計することが大切だと考えますし、それこそがこの仕事の醍醐味の一つだと感じています。

