コラム

COLUMN
Vol.35

マイクロアグレッション

2024/12/01

最近、「マイクロアグレッション」という言葉を知りました。「小さな攻撃」「微細な攻撃」などと訳されますが、1970年代にアメリカの精神科医学者であるチェスター・ピアス氏によって提唱された言葉だそうです。
これは他人を傷つける意図はなくとも結果として相手を傷つけてしまうような言動を指します。「差別」との違いは、言葉を発している側に「相手を傷つけようという意図がないこと」。良かれと思って発した言葉が逆に相手を傷つけているような場合も含まれます。
私の胸の中に長年刺さっている小さな棘は、これだ!と思いました。

20数年前、私は仕事に夢中でした。難しいけれどやりがいのある仕事。尊敬できる上司。優秀な先輩や同僚から刺激を受けて、お客様にもよくしていただいて、今振り返ると我ながらよくあれほど長時間働けたなぁ…と思うような仕事ぶりでした。
そんなある時、上司に言われました。「君は、結婚したら良い奥さんになれそうだよね」。
令和の今では部下に対してこのような発言をするマネジャーはいないと思いますが、かなり前の話です。当時の私は、尊敬している上司にそんな肯定的な見方をしてもらっているのだ、有難いことだ、と思うことにしました。嬉しい気持ちと同時に、何とも言えない寂しさも感じていました。
私は「君は、良いマネジャーになれそうだよね」と言ってもらえる方が数倍嬉しかったのです。(そう言ってもらえなかったのは私が女性だからではなく、私自身の実力不足が理由だともちろん分かっていますが…)

「様々な施策を打っているのに、女性管理職が増えません」とお客様からご相談を受けることがあります。よく指摘されているのが長時間労働の問題です。現実として1日は24時間しかありませんし、長時間労働が常態化していると、育児時短を選択されている方などが管理職を目指すことを諦めてしまう傾向があると言われています。
ですが、女性管理職が増えない要因はそれだけではないと思います。
「この案件は出張が多いから、男性社員に任せます」
「育児中で負担だろうし、君に任せる企画業務は少なくしておきました」
「希望制のリーダーシップ研修、課題が多くて大変だから無理に受けなくていいよ」
配慮しているはずの言葉や気遣いが、小さな攻撃として積み重なった結果「私は期待されていない」「私には管理職なんて到底無理」といったセルフイメージ形成の遠因になってしまうケースが少なからずあるのではないでしょうか。

どのような言葉が嬉しいのか、どのような気遣いをありがたいと感じるのか。それは、発する側が決めるものではありません。言葉や気遣いを受け止める側の価値観や状況によって決まるのです。
「そんなことを言われると、怖くて部下に何も言えなくなるよ…」とのご批判を受けそうですが、どうかご心配なく。相手の価値観や状況を確認した上でコミュニケーションを取れば良いのです。
今困っていることは何か。どのようなサポートを求めているか。3年後、どうなっていたいか。管理職を目指したいのか。専門性を磨きたいのか。相手を知ることで、マイクロアグレッションの危険性は回避できると思いませんか?
そしてこれは、女性社員だけではなく男性社員にも、独身者・既婚者、フルタイム勤務者・時短勤務者…組織で働く全ての方に対して配慮すべきことだと思います。勝手な決めつけ、価値観の押しつけをしていないでしょうか?「自分は正しいことをやっている」「相手のためを思って言っている」という時ほど、冷静に確認する必要がありそうです。
もちろん、仕事以外でも同様ですよね。私自身、つい夫や子供たちに「微細な攻撃」を仕掛けてしまっている場面が多いかも…自分自身を戒めて日々行動していきたいと思います。

Editor Info.

シニアコンサルタント

村山 鈴子

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