コラム

COLUMN
Vol.28

人事制度の分析

2024/05/08

人事制度設計コンサルティングをご支援する最初のフェーズでは、必ず人事制度の現状把握、分析を行います。
この作業がないと、どこをどう改善すればいいのかが、明確になりません。
もし現状把握、分析を行うことなく人事制度を構築しようとすると、今はジョブ型が流行っているからジョブ型にしようとか、コンピテンシー評価は古いから能力評価は要らないとか、安易な選択に流れる恐れがあります。

流行に左右されず自社にあった人事制度を構築していくためには、現在の人事制度がどうなっているのか、なぜこの仕組みにしているのか、今の制度は何を目的にしていたのか、機能した点や課題点を洗い出し、理解した上で新しい考え方、新しい仕組みを設計していくことがとても重要です。
今回は、人事制度の分析を題材に考えてみたいと思います。

我々外部の人間がお客様の制度がどうなっているのかを知る方法は限られています。
役員や社員を対象にしたインタビュー調査やアンケート調査と賃金データ、規程や人事制度説明資料などの資料調査です。

アンケートやインタビュー調査は網羅的ではありませんが、何が一番の関心事か、どこが問題かは把握することに役立ちます。役員や社員が課題と感じている箇所が一致することもあえれば、食い違っていることもあります。見ている視界や視座が違うためですが、それぞれの役割からの意見は重要です。
人事制度説明資料は社員や管理職向けに作成された資料で、評価や給与の仕組みがどうなっているのかを把握するのに最適な資料です。我々も人事制度説明資料を読み込むことで制度の理解につなげていきます。
しかし、ほとんどの会社には規程はありますが、社員向けの人事制度説明資料はないことがあります。
規程を読む社員はごく一部です。人事担当者としては、自社の人事制度がどうなっているのか、評価の手続きや昇給のスケジュールや昇格のルールなどはできるだけ公開し、社員の理解を深める努力が必要です。

賃金データは自社の実態を端的に客観的に確認することができる情報ですので、実施したことがない場合は、ぜひ分析、考察することをお勧めします。
年齢×基本給、等級×基本給や基本給+属人手当、等級×基本給+役職手当+時間外手当など、様々な角度からデータを集計し、傾向を確認することで、どこに不具合が生じているのか、自社の給与や賞与の実態が把握できます。
平均値では等級間でそれなりの差はあるものの、重複が激しく下位等級の方が上位等級を上回る様子が確認できたり、時間外手当が多く管理職よりも月収が高い社員が確認できたりします。上記インタビュー調査などで、管理職なりたくない社員が大勢いるなどのコメントの裏付けが数字やグラフで確認できます。
また同じ等級なのに数名だけ突出した給与をもらっている人がわかったりします。人事部長などの高い役職の方が以外と知らないことが多いものです。

外形的な状態はこれらの調査で把握できますが、今の制度がねらいどおりに設計、運用されているのか、どのような背景があって今の仕組みになっているのか、今の仕組みは自社に相応しいのかは、データや情報を基にさらに考察することが必要になります。実はこれが結構難しいのです。
忘れてならいないのは、自社の人事制度ですから、自社の事業の特性とあっているのか、自社事業を発展させるための制度になっているのかという観点からの考察です。

事業の発展には、年功運用ではなく、実力主義の人事制度が必要ということで導入した制度があったとしましょう。でれば年齢に関係なく昇格や登用が行われているはずです。これをデータやコメントで確認していくことになります。
各年度の管理職登用の年齢の変化、実力を確認するのにつかわれた評価の内容などをデータや資料で確認し判断することになります。

自社の事業にマッチしているかどうかは過去からの制度の変遷を紐解くことや、ビジネスモデルと制度の相性などを確認、検討することが必要になります。“朝礼朝改”のような変化の激しい業界で事業展開するのに、長期にわたる経験を重視する制度では事業を支える制度になっていないという考察になります。
また会社によって大事にすることは違います。オーナー企業であればオーナーの思想が制度全体に影響していることも少なくありません。それらがどこに反映されているのか、今の制度が自社に即した制度であるかどうかを確認していくという姿勢、取り組みが必要です。

制度全体がある思想によってつくられている一貫性ある会社の場合は、現状は最適解の一つになっているため、改定する意味があるのかという問いに転換していきます。(この場合も、どういう制度にしていくかは結構難しいです)
制度全体に一貫した考え方や仕組みになっていない会社の場合は、前述のような分析を行い、課題を整理していき、今後のあるべき姿を描くことになっていきます。

一度自社の人事制度を客観的な視点で分析してみてはいかがでしょう。きっと気づきが多い作業となると思います。

Editor Info.

エグゼクティブコンサルタント

平田 伸正

STAFF紹介