コラム

COLUMN
Vol.23

人事制度の寿命

2023/08/01

物の寿命とは、その物が使用に耐える期間のことを言うらしい。機械なら動かなくなるか、動いていたとしても本来の機能を十分に果たさなくなったとき、それが寿命となる。そして、ほとんどの物には寿命というものがあるらしい。

今回は、人事制度の寿命について少し妄想してみようと思う。

物の寿命は、本来の機能を果たさなくなったときだそうだから、やはり人事制度にも寿命はあるのだろう。人事制度をつくるときの設計者の期待は、しっかりと評価し、見合った処遇をし、そしてその運用を通じて一人ひとりがより高い能力を発揮し、より高い成果を生み出すための支援をすることだったのだと思う。それがうまく機能しなくなっているなら、それはいわゆる寿命ということになる。

やっかいなのは、人事制度というものは、寿命が来てもある日突然機能を完全に停止したりしないから騙し騙し使えてしまうこと。いっそのこと完全停止してくれればわかりやすいのに、機能が弱ってもいつまでもいつまでもゾンビのように動き続ける。ゾンビ化するきっかけにはどういうものがあるのだろうか。

人事制度改定に踏み切った企業を振り返ってみると、ひとつには事業自体の変化がありそうだ。たとえば事業の拡大により新たな職種・職務が急増し、既存の枠組みで評価や処遇をしきれなくなれば制度を見直すタイミング。放置すれば制度は機能不全を起こすかもしれない。その逆もある。規制と無競争に守られていた業界が競争にさらされるように変われば、企業は、人も組織も他のあらゆるものをスリムにして勝てる体づくりを始める。何を機械やコンピュータに任せて、どういう役割担う者を処遇するのかを突き詰めれば、それまでの評価制度や給与体系ではいろいろと不都合が起こる。事業のカタチと人事制度は密接だ。

社会動向の変化という外圧によって制度が耐え切れなくなるケースもある。たとえば、女性活躍推進のように一旦国の政策として動き出して世の中からの外圧が高まると、総合職と一般職の処遇格差の見直しや、時間限定や地域限定の働くルールやそれを評価する制度の変更、管理職登用時の昇格ルールなど広範囲にわたって制度変更が必要になってくる。福利厚生面での見直しも必要になってくるだろう。このような外圧は大企業ほど受けやすい。

従業員があげる声というのも見逃せない。評価に対する不満、昇格基準の曖昧さ、そして不透明なキャリアプランといったところが多くみられる。中でもキャリアの不透明感を訴えて離職者が増えていくようなら業種によってはダメージが大きい。従業員のあげる声の特徴は、自身の評価や賃金や昇格に大満足し、声を上げて制度を大絶賛する従業員はまずおらず、人事制度を十分に理解せずに自身の境遇の不満を言う割合の方が圧倒的に多いこと。だからこそ、どういう立場の声を拾うのか判断することが会社にとって重要な作業になってくるだろう。

ここまで書き流してふと思うのは、人事制度の寿命というものは、機械や生物のように長年の使用によって構造のどこかが劣化や摩耗することで起こるのではなく、世の中の変化や事業の変化、働く人たちの意識の変化によって、その寿命を迎えることが多いのだろうということ。

人事制度だけ見つめていてもその寿命には気づけない。自社の事業はどう変わろうとしているか、世の中はどう動いているのか、従業員の意識はどう変わってきているのか、そういった周囲の変化を敏感に察知することが人事制度の寿命に気付ける大事なポイントなのかもしれない。

Editor Info.

シニアコンサルタント

宮崎 茂

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