コラム

COLUMN
Vol.20

看護職場におけるサーベイを使った組織開発のお話

2022/12/03

■きっかけ
ある県の看護協会の会長からのご依頼で、看護部の望ましい姿を明らかにしてほしいというご要望を受け、様々な病院の看護部長さんにインタビュー調査を実施したことがあります。

私は当初、以下のような考え方をしていました。
“女性が多い職場だから、ケアするべきことがあるのではないか”、
“死という言葉が身近にある職場は他とは大きく違う。民間企業のマネジメント以外にも気を付けるべきことがあるのではないか”、
“法律内で行わなければならない仕事であるから、制約が多く自由度は低いのではないか”等々。

しかし、実際は大きく違っていました。調査で明らかになったことは次のようなことでした。
・看護部長が部門の方針やビジョンを示し、看護師長を通じて、スタッフまで浸透させている
・看護部長は現場の状況をきちんと把握することや、スタッフとの接点を少しでも増やそうとしている
・看護部長は自施設(病院)の強み、良い点をわかりやすくスタッフまで伝えている
・看護師長はスタッフとの対話を重視し、時間をみつけては対話している
・看護師長は評価の運用においても自分なりの工夫を施し、評価を動機づけや育成につなげている
・スタッフ同士では活発な対話が行われ、互いに助け合うなどよい人間関係が築かれている
・職場や上司に対してもポジティブな感情を持っていて、元気が良い
・病院ですれ違う方々皆さんが気持ちよく挨拶している  等

訪問したどの病院の看護部長さんも堂々としており、組織の目指すことをロジカルに語りますし、師長を通じて組織を運営し、スタッフの育成に力を入れている様子は、手本となるマネジャー、部長そのものでした。

これらのことを報告書にまとめ、会長へご報告した時、この状態をベンチマークにして、県下の病院の看護部組織のコンディションを測るためのツールを開発してほしいと追加のオーダーをいただき、組織開発サーベイを作りました。

■簡単には変わらない
看護職場は離職が多く、定着が課題だと伺っていましたので、サーベイ結果を使って人材の定着のためにはどのような対策を打つべきかを職場で議論できるようなガイドブックやツールを開発したり、サーベイの読み方や使い方を理解するセミナーを開催したり、希望する病院には個別に報告書を作り、打ち手の議論を行ったり、あるいは実際に対策立案、施策実行し、その効果を確認したりと、様々なご支援を行っていきました。
離職が改善する職場もありましたが、なかなか変化しない職場もありました。むしろそちらの方が多かったとも思います。
サーベイに参加した看護職場全部が改善することがゴールでしたが、現実はそうは簡単ではなく、離職といっても職場だけではない問題もたくさんあり、無力さを感じたこともありました。

■兆し
一方、良い兆しも生まれました。
A病院では、サーベイ全体のスコアが低く、特に“スタッフが大切にされていないと感じていた”という結果が出ていました。院長はもともと“看護師がいなければ病院は成り立たない”というお考えをお持ちで、自らサーベイ結果を受け止め、ご自分も看護職場の改善に乗り出したのです。
院長が実践されたことは、毎朝、看護師にたしてラウンドすることでした。毎日早朝、夜勤明けの看護師一人一人に、「おはよう!」、「お疲れ様」、「何か困ったことない?」等の一声かけて回るのです。
看護部長さんも部長室を出て、院長とは違う時間帯に病棟をラウンドすることをご自分の大事な仕事として優先度を上げたのです。院長、看護部長の努力の結果、スコアは年々改善していきました。
これだけで改善したと断定するのは短絡的かもしれませんが、トップ自ら行動で示すと、職場の雰囲気や考え方が大きく改善するということを示していた事例だと思います。

B病院のC病棟の師長さんはサーベイの結果にひどくショックを受けられていました。
自分自身は何事も積極的に考えて行動していたのですが、サーベイの結果では主任、スタッフのスコアが極端に低く、自己認識は高いが他者認識は低いという管理者なら誰でもショックを受ける結果だったのです。
その師長は副看護部長にこう話したそうです。
「自分自身ががんばらなきゃと思って仕事してきたけど、みんなから信頼は得られませんでした。辞めます。」
すると副看護部長はこうおっしゃったそうです。
「〇〇さん、辞める前にスタッフの気持ちを聴いてみたらどう?」
師長さんは辞めるつもりで、スタッフとの面談を始めました。月1回、一人5分。仕事の話はしない、スタッフの話を聞くだけの5分面談。病棟には非常勤含めて30名以上のスタッフがいますから、一人5分でもたいへんです。
最初は「?」みたいな状態から始まった面談でしたが、徐々に変化が現れ始め、10分、15分と身上を話すスタッフが出てきたり、師長の考えを聞かせてくれとメモを取りながら熱心に耳を傾けるスタッフが出てきたり、忙しい中ですが、面談を楽しみにするスタッフも出てきたりしました。
1年後、サーベイの結果は劇的に改善し、スタッフが一人も辞めない病棟師長として賞賛されたとのことでした。

■まとめ
上記のケースからの学びや示唆はたくさんあります。管理者が実践、行動することの大切さ、サーベイ結果を自分事として真摯に受け止めることの重要性等々。
その中で、“対話、聴くこと”の大切さがあげられます。
何気ないねぎらいの一言や、相手のことを受け止める姿勢、管理者の方から足を運んで聴く、という対話のスタイル。
マネジメントにおける面談の鉄則として“受信8割、発信2割”というものがありますが、聴くことはマネジメントの強力な武器であると痛感させられた事例でした。

*組織開発サーベイでは、たくさんのことが数値化され改善点がわかります。何がわかるのか、どう使うかは、別の機会に譲りたいと思います。

Editor Info.

エグゼクティブコンサルタント

平田 伸正

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