コラム

COLUMN
Vol.31

評点をつけない評価(ノーレイティング)

2024/08/01

先日友人から、会社の評価制度が変わり従来のように「S」や「A」といった評点をつけなくなったと聞かされた。ノーレイティングという手法らしい。

レイティングとは評点をつけるという意味だから、ノーレイティングは評価点をつけないということになる。今月は、このノーレイティングに触れてみようと思う。

ノーレイティングは、2000年に入った頃から外資系企業を中心に導入され始めた手法だ。あらかじめ設定された項目の1つずつに評価点をつけていた従来手法の画一的で柔軟性の低さや、半年や1年に一度の評価という頻度の問題を解決するために工夫された手法であり、その後はこの手法を採用する日本企業も散見されるようになった。

人事部からの制度説明がオンラインであったようだが、友人は最初、ピンときていないようだった。評価点をつけずに、昇給額や賞与額をどのように決めるのだろうと言っていた。が、いくつか尋ねていくと友人の会社は、どうやら賞与は従来通りの目標管理制度を継続し、成果の達成度に応じて賞与額が決まるようで、ノーレイティングは行動評価に関して採用し、確認された内容で昇給額が決まる仕組みということが判明した。

ノーレイティングでは、一つひとつの項目に評価点をつける作業はないが、部下一人ひとりに対する期待を上司はしっかり考えて示す必要があり、そして、それがどのように実践されているかということについて1on1ミーテイングなどを通じて頻度高く確認することが推奨されている。このことを受けて一般的にノーレイティングは、部下の成長支援をより強く推進する手法だと認識されている。

たしかに、ノーレイティングは、あらかじめ定められた枠組みの中で評価点をつけることとは決別した手法であるから、評価者である上司は、部下一人ひとりの特性や状況に応じて関わることができる自由度の高い仕組みである。部下の何を見て、何を指摘するかという点において上司に与えられた裁量や自由度は、従来のような画一的な評価制度よりはるかに大きくなる。そのぶん上司の評価技量・育成技量も高いレベルで求められることになる。そしてこの制度に障壁があるとすれば、そこだろうと思う。

しばらくして友人の会社のノーレイティングの運用状況について聞いてみた。一次評価者となる彼はA4サイズ2ページ分の評定シートに、彼の部下が自己評定した行動、強み・弱みといった情報に対して、評価者としてのコメントをびっしりと書き込むらしいのだが、その人数が10人を超えるので大変だったらしい。彼曰く、自分は人の行動を誉めたり指摘したりする表現や言葉をあまり知らないこともあって、どの部下に対しても似たような言葉や表現を使ってしまっていることに気づき、その後は少し入力しては手が止まり、そしてまた少し入力しては止まり、結果として膨大な時間がかかったと苦笑いしていた。

ただ、そうやって上司が部下を育てるためにしっかりと考え、部下にフィードバックするための言葉を必死に紡ぎだす過程がこの制度の目論見でもあると思えば、これは制度導入初期の正しい停滞なのかもしれない。

一方、彼に関して言えば気になることもあった。彼の上司にあたる二次評価者は、彼が記入した10数人分の評定シートに対して何の確認も指摘もしてこなかったらしい。というか、まるで関わろうとしなかった。彼は、評定シートをびっしりと埋めた自分の情報に何か言うほど部長は部下の行動に関する情報を持っていないだろうし、一人ひとりについて記入内容の説明を始めれば、それはそれで膨大な時間がかかるわけだから仕方がないと言っていた。まあ、上司記述内容に関して部下から何か説明を求められても、この部長は関わろうとしてはこないだろうし、相談相手にもならないだろうと思ったらしい。

新しいことを導入するときは様々な摩擦が起こるものだが、ノーレイティングに関して言えば、制度設計時に、評価者全体の評価スキルや部下育成の重要性に対する認識を丁寧に確認した上で運用細部までイメージをしっかりつけておくことが欠かせないと感じた。

ところで、この会社の昇給の決め方だが、評定シートの内容に基づいて二次評価者が部下を相対序列化して人事部に提出するらしい。

ノーレイティング。
賃金等の処遇に反映させるためには、最終的になんらかのレイティングは必要になる。画一的な個別要素ごとの評価をしないという手法、今後どの程度日本企業に受け入れられるのだろう。

Editor Info.

シニアコンサルタント

宮崎 茂

STAFF紹介