コラム

COLUMN
Vol.51

ニューロダイバーシティ——
「違い」を力に変える、強く優しい組織へ

2026/05/01

「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)」という言葉があります。「脳の多様性」「神経多様性」などと訳されるこの概念は、注意欠如・多動症/自閉スペクトラム症/学習障害などの発達障害を能力の欠如や優劣ではなく人間の神経学的なバリエーションのひとつとして捉えることで、様々な特性の違いを尊重し社会で生かしていこうという考え方で、人材戦略に取り入れる企業が出てきています。
なぜ企業がニューロダイバーシティを推進するのでしょうか?企業には社会的責任があるから?当然、それは理由の1つではありますが、それだけではありません。IT人材をはじめとした優秀人材の獲得や組織へのプラスの効果などが期待されることが大きな理由となっています。

野村総合研究所の試算によれば、発達障害の方が十分に活躍できていないことによる日本の経済的損失は約2兆3,000億円にのぼるとされています。裏を返せば、この人材を活かせる組織には、それだけのアドバンテージが得られる可能性があるということです。実際にマイクロソフトやSAPなど海外のIT企業は2010年代からニューロダイバーシティ人材が活躍できる環境を整備してきました。
日本国内でも、2024年4月の障害者差別解消法改正(民間企業での合理的配慮提供義務化)やDEIの観点からニューロダイバーシティ推進の動きは広がってきており、様々な事例が生まれています。
2021年に「異能人財採用プロジェクト」を立ち上げ、AI・機械学習など先端技術分野で突出した能力を持つニューロダイバーシティ人材を積極採用してきたオムロン株式会社では、組織風土に大きな変化があったそうです。「不得意なことがあっても、チームでカバーしながら、得意なところを発揮してもらうほうがイノベーションの近道」とのこと。マネジメントの見直しや職場全体の働きやすさ向上にもつながったそうです。ニューロダイバーシティ推進が組織の「優しさ」だけでなく「強さ」も育んでいることの好例と言えます。
Neurodiversity at Work 株式会社代表取締役で臨床心理士の村中直人氏は、社員を画一的に扱う「レンガ組織」よりも、いろいろな特性を持つ社員が組み合わさる「石垣組織」の方が激しい時代の変化に適応できると指摘されていますが、まさにその通りではないでしょうか。
他にも、「ショートタイムワーク」で新しい働き方を進めているソフトバンク株式会社、掲載情報審査業務を担う在宅勤務社員として地方在住者を雇用している株式会社リクルートオフィスサポートなど、多様な働き方の工夫も広がっています。

こうした取り組みを進める上でのポイントは、「採用前に職務内容を明確に定義する」「実習など丁寧な選考過程でマッチングし、適応可能性を測る」「本人へのサポートはもちろん、受け入れ部署にも丁寧な事前教育やサポートを行う」ということ。また、勤務時間や勤務形態などを柔軟に設定できることも重要ですし、感覚過敏などの特性に配慮した執務環境整備が必要になるケースもあります。容易ではありませんが、このプロセスが組織全体の文化を変えていくことに繋がるはずです。
この一連の導入プロセスはニューロダイバーシティ推進に限った話ではなく、人材採用や育成・定着のポイントでもありますよね。育児や介護・看護、療養中の社員、高年齢の再雇用者、外国籍人材——多様な背景を持つ人材がそれぞれの能力を活かし協力する組織作りのために必要な施策です。
2026年7月には民間企業の障害者法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられますし、「雇用義務への対応」から「戦略的な人材活用」へと転換する企業が更に増えてほしいと強く思います。「違いを排除する」のではなく「違いを活かす」組織——それはきっと優しいだけでなく本当の強さを兼ね備えた組織となっていくのではないでしょうか。

Editor Info.

シニアコンサルタント

村山 鈴子

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